次に、第2の問題ですが、
様々な理由により、OSS(オールドスタイル・シャム)全体の数は激減したのに、その中では、
血統書もなく登録もされていない猫の数は増加した、ということです。
これには、流行に左右されやすい、という日本人の気質も関係しています。
 
 
日本人のペットの歴史、使役動物でない動物を愛し育てるという歴史は、
欧米と比べてかなり遅れて(最低でも70年〜80年くらいの差)始まりました。
世界初のキャット・クラブが設立されたイギリスにおいて、
これも世界初の大規模なキャット・ショーが開催されていた1880年頃、
日本では、ちょうど明治維新の頃にあたりますから、無理もないことです。
イギリスでは、その時代から、既に去勢手術も行われてといたということですから、
驚きです。
 
 
日本における最初のキャット・ショーは、戦後(1950年〜1960年頃)、
アメリカの進駐軍の方たちから譲られた、
約70匹ともいわれるシャム猫たちで始まったと言われています。
その後、シャム猫は、海外から入ってきた高級なペットとして大流行しました。
「猫といえば、シャムかペルシャか。」という時代が、しばらく続きました。
日本初の、ペット・ブームだったと言えます。
この時代から、近代社会においての愛玩動物という概念が、日本人に浸透し始めたのです。
 
 
しかし、その爆発的な流行の結果として、乱繁殖が横行し、今度は供給が需要を上回ってしまいました。
(ご存知の通り、この傾向は、現在でも一部の猫種・犬種に見られます。
乱繁殖の過程での、無計画な近親交配による弊害も多数発生していると聞いています。)
 
 
その結果、その猫たちの価値(日本では、主に商品としての価値)は急激に下がり、
その当時のブリーダーさんたちは、次々とシャム猫のブリードを辞めていってしまいました。
あるいは、ブリーディング自体は続けていても、費用を節約するため、
猫の団体への登録を省くようになってしまったそうです。
きちんとしたブリーディングには、かなりの費用や時間が(その上努力や忍耐も)必要です。
もちろん、当時の日本では、ブリーダーさんもオーナー側も、品種を育てる、すなわち「育種」についての認識が現在より不足していた、
という側面もあります。
 
 
今となっては、この「登録を省く」という行為が、
現在の日本のOSS(オールドスタイル・シャム)の混沌とした状態を招いた、大変残念な判断であった、と言わざるを得ません。
そして、その一端を担ったのは、ブリーダーさんだけではなく、
一時的な流行に左右された、オーナー側でもあったのです。
 
 
海外ではそれでも、OSS(オールドスタイル・シャム)に愛着を持つブリーダーさんたちが、地道に繁殖と登録を
続けていました。
しかし、
それとは対照的に、
日本でこれほどまでにOSS(オールドスタイル・シャム)が減少してしまったのは、
上記の理由に加えて、「第一の問題」で述べた「ポイント・パターンと青い眼」を持った外猫が増えた、
ということにも、その一因があります。
シャム猫を欲しいと思った人は、
ブリーダーさんから求めるより、その辺で拾ってくれば事足りた時代もあったのです。
見た目は同じですから、オーナー側としては満足したでしょうし、
猫にとっても必ずしも悪い生活ではなかったかも知れません。
それはそれで結構なことでした。
 
 
ついでに言えば、「血統書」という概念が入ってきて間もない当時の日本人(アジア人)にとっては、
「血統書」は、さほど重要ではなかったのかも知れません。現在でも「生きとし生けるもの」として、
全ての自然を大切にする考え(仏教的思想)は、我々日本人の根底にあるものですし、
それ自体は世界に誇っても良い考え方だと言えるでしょう。
 
 
時同じくして、ショーの世界でも、シャム猫のショー・スタンダードが変更され、
この昔のタイプのOSS(オールドスタイル・シャム)は、ショーでの入賞のチャンスを失われてしまいましたので、
ブリーダーさんたちのOSS(オールドスタイル・シャム)猫離れを、さらに加速させることとなりました。
その後、一部のブリーダーさんは、新しいショー・スタンダードに魅せられ、
モダーン・サイアミーズのブリーディングを続けていらっしゃいます。
しかしながら、日本における「シャム猫=サイアミーズ」の絶対数は、
モダーン・サイアミーズやOSS(オールドスタイル・シャム)如何にかかわらず、今もってかなり少ない状態が続いているそうです。
サイアミーズとしての品種全体の規模が、かつての全盛期より、かなり縮小していると言えます。
 
 
1970年代以降、日本におけるこのタイプのシャム猫、OSS(オールドスタイル・シャム)は、更なる受難の時代を迎えました。
ペット・ショップなどで「血統書は付いていないけれど、純血種です。」と説明されて、
販売されるようになってしまったのです。
厳密に言えば、「血統書の付いていない純血種」という概念は存在しないと言うことは、
「第一の問題」や「血統と登録」で述べたように明らかですが、
同様の説明を受けて、その真偽を問うことなく、「なるほど、そうなんだ。」と納得し、
廉価で購入された方が数多くいらっしゃることでしょう(余談ですが、私自身もその一員です)。
もちろんそれはそれで、オーナーにとっても猫にとっても、必ずしも悪いこととは言えません。
ペットや家族としての個々の猫の価値、いわんや命の価値までも下がった訳ではないからです。
 
 
「血統書」を重要視しないとは言っても、
「血統書」を持っている猫と同等の価値(何の価値か分かりませんが)を持っている猫だと思いたい、一部のオーナーにとっては、
自尊心も満足させられる好条件ですし、
裏を返せば、その心理の矛盾点を突いた巧妙な販売方法でもありました。
もちろん、全く気にしていないオーナーもいるでしょう。
「第一の問題」で述べたように、外見からは判断ができませんので、
ペット・ショップにとっても有利な状況でしたでしょうし、廉価であれば、
皆が満足する取引であったでしょう。
ただ一つ、当のOSS(オールドスタイル・シャム)の「行く末」を除いては、です。
 
 
その時代においても(さらに現在に至っても)、ペットとしての人気はそれほど下がりませんでしたので、
たとえ外見だけのものであっても、廉価や無料であれば、求める人は多かったことと思われます。
ただ、品種の存続の面から考えれば、この上なく軽く扱われたことになり、
結果的にはそれが、更に安易な交配や、血統の拡散を助長したことになります。
当然ながら、そのような交配を繰り返すことにより、シャム猫本来の血も薄まって来ているはずです。
あるいは、逆に数の少なさゆえに、近親交配を選択するしかなく、
深刻な遺伝的な疾患のキャリアとなっているOSS(オールドスタイル・シャム)も多いかも知れません。
人間同様に、血が濃いということが、必ずしも良いこととは言えないのです。
 
 
一方で、
少なくとも1970〜80年頃までは、1950年代に入ってきたシャム猫の、2世代目、3世代目の猫がまだ生存していたと思われますので、
正統な「血統書のない純血種」のシャム猫が、本当にブリードされていたという可能性は確かにあります。
しかし、ほとんどのその猫たちの消息は今もって全く不明です。
 
 
それでは「現在は?」というと、極端な情報不足でもありますが、今の日本では、
近親関係にあたらない純粋なOSS(オールドスタイル・シャム)が「数えるほどしか残存していない。」
ということは、その数の少なさから判断しても容易に想像できることでしょう。
 
 
よって、現在日本で販売されているオールドスタイル・シャムは、近親交配から産まれるシャム猫、
あるいは、
「ポイント・パターンと青い眼」の和猫との交配から産まれるシャム猫そっくりな色の猫、
または、
シャム猫と関係のある他の品種(ヒマラヤン・トンキニーズなど)の
血統との混血である、異種交配によるシャム猫の数が、
意外に多いのではないかと考えられます。
 
 
ブリーディングの背景の全ては、
信頼性の高い猫の団体の「血統書と登録ナンバー」などの書類によって公的に証明されますので、
その裏付けがない状態でブリードされている猫は、近親交配や他の品種との混血によって産まれている、
と言われても、それを否定することのできる証拠は存在しません。
それ故に、
厳密にはシャム猫と呼べない猫が、シャム猫として販売されているということも、少なくないでしょう。
 
 
もちろん、そのオーナーと猫にとっては必ずしも悪いという訳ではありませんが、
品種の存続から見た場合は、悪化を招く可能性の方が大きいと言えます。
実際これは、本来のOSS(オールドスタイル・シャム)の存続や復活にとっては、非常に残念なことです。
何故ならば、愛好家側がそれを許し続けている限り、この状態は続く、と言えるからです。
 
 
「第二の問題」をまとめると、今の日本においては、心身ともに、そして遺伝的にも健康で、
しかも信頼のおける団体によって「純血種」だと認められるOSS(オールドスタイル・シャム)とは、滅多に出会えない、ということです。
それはすなわち、このままでは、今後日本では、シャム猫の愛すべき特質を持った、本来のOSS(オールドスタイル・シャム)がさらに減少し、
結果として、シャムMIXも含めてその血が薄まっていく、ということに他ならないのです。