このタイプのシャム猫の保存のための愛護や保存活動を行っている組織が、 アメリカを始めとした海外で1980年代後半から設立され始めました。 海外（主にアメリカ）では、各々の組織の発足から20年近く経ち、 ブリーダさんも徐々に増えてきています。 また、2000年以降に発行された猫の百科事典には、「最近の品種」「伝統的な品種」として、 再び紹介され始めて来ています。 しかしながら、残念なことにまだ日本には、この「昔のスタイルのシャム猫」の血統管理や ブリーダーさんたちの情報を把握している団体も存在していませんし、 専門のブリーダーさんたちも殆どいない状態です。
 
  また、運良くブリーダーさんが見つかったとしても、 繁殖可能なお年頃の猫も少ないうえに、血統や血縁関係も充分に把握できていないため、 ブリーダーさん自身も気付かないうちに、（あるいは、仕方なく） 雑種化や近親交配、異種交配（違う品種との交配）などが進んでいるそうです。 また、飼育環境・繁殖回数などについて、いくつかの問題を抱えている側面もあります。 結果として、このシャム猫の特質や性格を100%備えた健康な純血種（純血種の定義は各団体によって異なりますが）の数は減る一方で、 ペットとして求めている愛好家が多い割に入手しにくいという現状は、 オーナー希望者さんにとってもこのシャム猫にとっても非常に残念なことだと思っております。
 
  一方で、現在は日本のペット事情や獣医学もかなり進歩してきておりますし、 病気や事故・事件防止のためにも完全な室内飼いをなさっていて、 予防注射や避妊/去勢手術も積極的に施す責任あるオーナーさんが 一般的になりつつあるのは非常に喜ばしいことでもあります。 日本にも早く海外のような保存協会が設立されて、OSSと出会いを求めている全ての方々にとって、 新しい家族に出会うことが出来る環境が整うことを、心から願っております。

 
  
   日本のOSSが抱える問題は、大きく分けて２つあります。
 
   第１の問題は、そのポイント・カラーと眼の色に関連するものです。 シャム猫の外見的な特徴の一つとして、ポイント・パターンと青い眼があります。 この組み合わせは非常に美しいものですが、 初期のイギリスでは「異常な、まるで悪夢のような猫」であるとか、 「パグの仔犬」のようであるとか、酷評もされました。
 
   日本に入ってきた初期のシャム猫たちも、 例外なくこのポイント･パターンと青い眼を持っていました。 しかし、 このポイント･カラーと青い眼の組み合わせの遺伝子は、シャム猫のみならず、 あらゆる猫に作用するものです。 （詳しくは、本サイトの「シャム猫の色は何色？」をご覧下さい。）
 
   その頃の、日本の猫の飼い方は、去勢/避妊手術もしない、放し飼いが一般的でしたので、 当然のことながら、和猫にもそのポイントの遺伝子がかなり多量に流出してしまいました。 これは、日本だけではなく海外でも同じです。多くの国で、ポイントと青い眼の遺伝子を持っただけの、 国産の猫が急増してしまったのです。
 
   当時のシャム猫は、現在のシャム猫と異なり、和猫に代表される多くのアジアの猫に見られるのと同じような、 穏やかなくさび形の頭蓋骨と、 中くらいの大きさの極端さのない体型を持っていました。（タイもアジアですから、当然のことですが。）
 
   従って、放し飼いにされている和猫にポイントと青い眼の遺伝子が伝わっても、 「純粋なシャム猫」なのか、それとも「ポイントの遺伝子をただ持っているだけの、昔馴染みの和猫」なのか、 その姿・体型からは判断できません。 海外では、元からいる国産の猫は、その頭部も体型も、日本の和猫より丸くてずんぐりしているので、まだ判別し易いそうです。
 
   目の前の猫が本当に「血統書が付いていない純粋なシャム猫なのか。」、 それとも、「単に、ポイントの遺伝子と青い眼を持った和猫なのか」を、 その外見から見極めることは全く無理といって良いほど困難なことですし、 ショーやブリーディングに携わる方々は、 猫の団体の血統書（及び、登録ナンバー）を失った時点で、 個人的にはどうあれ、公の場では「純血種」と看做すことはありません。
 
   従って、現在日本に存在する数少ないOSSは、血統書と登録ナンバーを持っていなければ、 例え遺伝的には数少ない純血種の昔のスタイルのシャム猫であったとしても、 「シャム猫であることを放棄した。」と看做され、 ブリーディングをしようとしても、雑種として分類される道しか残されていません。
 
   これは、あくまでも、ショーやブリーディングの世界での話です。 個々の猫たちのペットとしての価値には、何ら変わりはありません。 ただ、ショーやブリーディングに携わる方々がいらっしゃらないと、 犬や猫でも、その品種を存続させることは難しいと言えるでしょう。
 
   現在、日本にもポイント・カラーと青い眼を持った、 外見的にはシャム猫に見える猫が沢山います。 シャムMIXとも呼ばれておりますし、 彼らも、程度の差はありますが、 シャム猫の遺伝子を受け継いでいるのでしょう。 ただ、彼らが、その姿のみならず、性格やその特質までシャム猫かというと、 これは全く別の話になってきます。
 
   ここに、日本のOSSが抱える、第１の問題が存在します。 ポイント・カラーと青い眼を持っているからといって、 安易にそのような猫たちの数を増やす訳には行かないのです。
 
 
   第２の問題は、流行に左右されるという日本人の気質にも関係します。
 
   日本人のペットの歴史、使役動物でない動物を愛し育てるという歴史は、 欧米と比べてかなり遅れて始まりました。 世界初のキャット・クラブが出来たイギリスで、最初の大規模なキャット・ショーが開催されていた頃(約1880年頃)、 日本では、新撰組が闊歩していたのですから。 イギリスでは、その時代から、既に去勢／避妊手術も行われてといたのですから、 驚きです。
 
   日本における最初のキャット・ショーは、戦後（1950年〜1960年頃）、アメリカの進駐軍の方たちから譲られた、 約70匹とも90匹ともいわれるシャム猫で始まったと言われています。 その後、シャム猫は、海外から入ってきた、高級なペットとして大流行しました。 「猫といえば、シャムかペルシャか。」という時代が、しばらく続きました。 日本初の、ペット･ブームでした。
 
   しかし、その一時的な流行の結果として、乱繁殖が横行し、今度は供給が需要を上回ってしまいました。 従って、その価値（主に商品としての価値）が急激に下がり、 その当時のブリーダーさんは次々とシャム猫のブリードを辞めてしまいました。 または、ブリーディング自体は続けてはいても費用の節約のため、 猫の団体への登録を省くようになってしまいました。
 
   第１の問題で述べた、「ポイント・カラーと青い眼」を持った、 外猫が増えたということにも一因があります。 シャム猫は買うというより、拾ってくれば事足りたのです。
 
   時同じくして、ショーの世界でも、シャム猫のスタンダードの変更や、その解釈が時と共に変化し、 この昔のタイプのシャム猫は、ショーでの入賞のチャンスが失われてしまいましたので、 ブリーダーさんたちのシャム猫離れを加速させることになりました。
 
   余談ですが、日本では、依然として、商業ベースに則ったブリーディングの割合が多いといえます。 イギリス・アメリカなど欧米では、特定の品種に傾倒した、 それこそ熱狂者とも熱烈なファンとも言える趣味で行っているブリーダーさんが、 かなり多くいらっしゃるようです。もちろん、趣味とは言っても、 ブリーディングの内容はプロのレベルです。 今後、日本でも、ペットに対する意識が成熟するにつれて、 そのようなブリーダーさんも増えてくることでしょう。
 
   その後の、1970年代以降のこのタイプのシャム猫は、 ペット・ショップで「血統書は付いていないけれど、純血種です。」と説明されて、 安価で、購入された方が数多くいらっしゃることでしょう。 それはそれで、悪いこととは言えません。ペットとしての価値まで下がった訳ではないからです。
 
   少なくともその頃までは、1950年代に入ってきたシャム猫の、２世代、３世代目の猫が生存していたと思われますので、 本当に「血統書のない純血種」のシャム猫がブリードされていた可能性はあります。 現在は、というと極端な情報不足でもありますが、「近親関係のないOSSは数えるほどしかいない。」 ということは、その数の少なさから言っても容易に想像できることです。
 
   よって、現在の日本で、販売されているオールドスタイル・シャムは、近親交配から生まれるシャム猫、 あるいは、ポイント・カラーと青い眼の和猫との交配から生まれるシャム猫、そして、 過去に他品種の血統も入っているシャム猫の数が、 思いのほか多いのではないかと思われます。 ブリーディングの背景の全ては、「血統書と登録ナンバー」によって証明されますので、 その後ろ盾がない状態で販売されている猫は、近親交配によって生まれているということも、 否定できません。
 
   第２の問題をまとめると、心身ともに健康で、 しかも多くの団体に「純血種」だと認められるOSSには、 今の日本ではなかなか出会えないということです。
 
  

 
   ちなみに、私自身も病気で老齢のシャム猫をきっかけにその寿命について考え始めることとなり、色々とネットで検索したり本を読んだりして、 「昔のスタイルのシャム猫」に関する情報を集めて参りました。 その結果、海外の情報量の多さ・多彩さに気付き、また、各国で愛護団体が作られ始めているという変化に かすかな希望を抱くことが出来ましたので、今まで集めた情報を整理する意味を兼ねて、このHPを作成することに致しました。 （尚、彼女は2005年8月に１６歳で永眠いたしました。)
 
  今の時点で日本では探すのを諦めた人や、 海外のオールドスタイル・シャムにちょっと興味を持っている方もいらっしゃると思います。 このサイトは、シャム猫＆オールドスタイル・シャム (昔のスタイルのシャム猫)について もっともっと知りたい方々のために海外の情報を中心に 現時点での「リンク集」としてまとめた、 非営利かつ個人運営(private & non-profit Website)のサイトです。 なお、現在webで集められ得る限りの情報に、ほとんど選択を加えることなく掲載しておりますので、 各々のサイトの内容の吟味や選択権につきましては、全て閲覧者の方々へ委ねられております。 まだ製作途中でございますので、リンク＆解説不足はご容赦ください。

 
   この猫は、現在品種としては認められておりませんので、 ショーへの出陳、あるいは出陳は可能でも入賞などは見込まれません。 この猫のブリーディングは、言わば、華やかなショー・キャットの世界とは対極にあるといえます。 加えて、希少種になりつつあり、品種として再確立(もしくは確立)させる途上の非常にデリケートな過程にありますので、 その血統管理や遺伝子などについても、相応の勉強や知識が必要になると思います。 それでも宜しければ、是非HP内でご紹介している様々な愛護団体のブリーダーさん育成プログラムを 覗いてみてください。私自身もブリーダーへの道が可能かどうかを検討中ですが、 現在のところ状況が許しておりません。しかしながら、将来において可能となるかもしれませんので、 理解を進めるための勉強や知識の集積は続けて行くつもりでおります。
 
  尚、海外から取り寄せた様々な資料もございますので、 ご興味のある方は管理人までご連絡くださいませ。

 
   もし、今現在OSSを持っていらっしゃり、今後ブリーディングを再開してみようかと お考えのブリーダーさんへのお願いが、２つほどございます。
 
  一つは、どうぞブリーディングの情報として血統書を作成しておいてください。 最初は手書きでも何でも結構です。あなたがお持ちのOSSは、 現在日本でも絶滅に瀕している貴重なジーン・プール（多様性のある遺伝子）を 持っているかもしれません。そのことを明らかにするためにも、 是非、交配をされた猫やその経緯を書き留めるための血統書を作成し、 保持し続けてくださるようお願い申し上げます。 いずれ、何かの折に、その情報が役に立つ日が来るかも知れません。いえ、きっと来ると思います。 できれば、過去に異種交配があったとしても、偽りなく書き留めていただけるよう お願い申し上げます。 どうぞ、「血統書なしの雑種」の汚名を返上できるように、 お力をお貸しくださいませ。
 
  もう一つは、国内で信頼の置ける団体、 できれば、「大きな猫団体の系列・傘下・加盟団体」への登録をされるよう お願い申し上げます。 欲を言えば、以前、その猫が所属していた団体で、 登録情報が消滅した猫のところまで、 遡って登録できればベストです。 そうすれば、その猫の血統・登録情報は 回復されたことになり、今後の日本のOSSの存続にとって、 この上ない貢献となるでしょう。 8世代分ともなると、総数256匹と非現実的ですが、 2〜3世代であれば充分現実的であり、 遡っての登録を代行を行ってくれる団体も存じております。 ご興味のある方は、ご連絡ください。
 
  もちろん、この限りではなく、 不明であれば、現在お手元にいるOSSからでも結構です。 このタイプのシャム猫の未来のためには、 公的な記録の保持を再開するということが必要なのです。 当面は無理であっても、 いずれ年月を経て、国内での「純血種」という立場に 復帰できる可能性を残してあげていってくださいますよう、 心よりお願い申し上げます。
 
 

MORIANN　拝

 
   このサイトへの数々の写真提供を快諾してくださった方々、 OSSC の Julia Craig-Mcfeely さんに心より感謝いたします。